40. 点火と炉・・・火をコントロールする

人類が火を利用した痕跡は79万年前の中東にさかのぼる。当時の人類は原人であった。50万年程前には中国で、40万年ほど前にヨーロッパで火を利用した跡が発見されている。火を利用するとは、火をコントロールする技術を持っていたことだ。火を手に入れ、維持する知識と道具(?)があったはずである。原人が発明した火の利用法は旧人、そしてホモサピエンスへと受け継がれた。

火は、種々の使い方がある。暖房。調理。灯り。武器。原人、旧人、新人(現代人)が世界各地に居住地を拡大できた秘訣は火の利用であったと考えられる。特に、温帯地方では冬がある。冬を乗りきるために暖房として、また、保存性の高い硬い木の実や干し肉を食用にするために役立ったであろう。寒さに耐える技術は、また、寒冷地である高地を越える技術であった。さらに、加熱すると細菌などの微生物が死滅する。未知の地で発見された食物も、加熱したら食用にできたものが多かったであろう。

原人、旧人がどのようにして火を手に入れたかは不明である。新人は木をこすり合わせて、摩擦熱で火を起こしたと考えられる。

火をコントロールするためには火をつける技術の他、火を閉じ込める技術が必要である。簡単な装置は炉である。最初は石で囲んだ炉が使われ、焼け石がフライパン代わりに用いられたであろう。さらに、土で固めて火をより封じ込め、熱の噴出し口を固定したものが考案された。その過程で、土器が発見されたのであろう。適当な大きさの石を加工して保存用の容器を作るのは困難である。土器は最初は日干しで、そのあとは熱を加えて強化したものが使われた。

最古の土器は1万年前のもので、日本で発見された。古代オリエントでは約7000年前から使われた。土器をつくるには700〜800℃の熱が必要である。この程度の熱は大きい焚き火をつくるか、炉を使えば達成可能であった。穀物は火を通さないと食べられない。したがって、農業が発明されたときには穀物を火で調理する方法が普及していたであろう。穀物は粉にして、水でこねたあとに焼けた石などに乗せて焼いた。

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火をおこすには高い温度を作り出す必要があります。木を摩擦熱で温度を上げ、同時に燃えやすい木屑を作り出して、火種を作る方法はテレビ等で見ますが、結構大変な作業です。まさに、道具しだいです。

それに対して、火打石は画期的な道具です。石英質の硬い石(火打石)と鉄(火打ち金)と、火花を火種にする火口の3点セットです。鉄が発明される前は火打ち金の代わりに黄鉄鉱が使用されました。

石器を作っていた過程で、石と石を打ち合わせ、火花が散ることはおそらくよく観察されたでしょう。石と石の衝突で発する火花は、衝突の際の摩擦熱だけで赤熱された石の粉で、火種を作り出すエネルギーがありません。

片方が鉄鉱石の場合、うまく鉄の部分が削れると、鉄の粉が同じように摩擦熱で赤熱します。鉄の場合は空気中で急激な酸化をおこし、燃焼します。火花を火口に落とすと、火が燃え移って炎を生じます。火口には燃えやすい枯れ草を細かくほぐしたものなどが使われたことでしょう。

自然石ですから、火花が飛びやすい物を選ぶ必要がありました。火口はすぐに入手できますが、黄鉄鉱は簡単には入手できず、原始人ははるばる旅をして鉱山へ石をとりに行ったことでしょう。火打石のように石英質の硬い石は鏃などの武器にもなりました。

火打石のシステムはライターに応用されて、いっそう使いやすくなりました。円筒型のフリントやすりで発火石を削り、火花を作り出します。

マッチは化学反応で小規模な爆発を起こす道具です。酸化剤である塩素酸カリウムと還元剤である硫化アンチモンの混合物が低温で発火することを利用しました。塩素酸カリウムは燃えやすい硫黄と共にマッチの頭に固めてあります。硫化アンチモンはマッチ箱の脇に塗ってあります。両者を擦り合わせると摩擦熱で発火します。

最近では圧電セラミックスを使った電子ライターが増えました。家庭用の着火装置のほとんどが圧電セラミックスで、コンロやストーブ、湯沸かし器でも使われ、マッチを駆逐しました。

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燃えるとは、熱と光を発して物質と酸素が結びつく化学反応です。ファラデーは著書、ろうそくの化学で、燃焼のときに起こる様々な化学反応を説明しました。ろうそくはロウが燃えますが、固体のロウは燃えません。ロウは蒸気になって酸素を含む空気と混ざって燃えます。

火をつけるときは、着火源(マッチやライター)の熱で、芯に吸い上げられたロウが蒸気になり、火が灯ります。火は直下のロウを溶かし、液体にします。液体のロウは、芯に吸い上げられ、炎によって更に熱を加えられ、気化します。気化したロウは炎の熱によって次々と酸素と結びつき、酸化します。

炎は上昇気流を生じ、周りの空気を対流させて芯のほうから空気を送り込みます。気化したロウは、上昇気流の中で空気と混じり、炎の熱によって次々と酸素と結びつき、酸化します。完全に酸化すると二酸化炭素と水になりますが、炎の中、すなわち、熱と光を発している温度の高い空間を通過する間に酸化できなかったロウの熱分解物が残ります。これがすすとなって検出されます。

ろうそくを吹き消すと一筋の煙のようなものが立ち上りますが、これは気化したロウが冷えて微細な固体の粒になったものです。

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木や紙、布などの有機物は炭素を多く含み、加熱すると分解して燃えやすい可燃性ガスとなって気化します。可燃性ガスは酸素と結びついて燃焼し、熱と光を発します。酸素と結びつかなかった可燃ガスは冷えると液体や固体の小さな粒になり、これが煙です。ガスは酸性、アルカリ性であり、また、反応性に富んだ化学物質からなるので、目や鼻の粘膜を刺激します。すすは、熱分解が進んだ可燃性ガスで、炭素を多く含み、黒く見えます。すすを膠で固めて墨を作ります。

火事の時には様々な物が燃え、また、燃えない場合も熱分解されて、多数の成分を含む煙が発生します。当然のことながら有毒ガスも含み、非常に危険です。

燃え残った灰・炭などは、ガス化しなかった物質の集合体で無機物です。灰の主成分は、酸化カルシウム、アルミナ、珪酸などが塩素イオンや金属イオンと複合体になっています。燃料や焼却源によって異なります。

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水には気化することによって物体から熱を奪うという作用があります。有機物を燃焼させる場合でも、水分を含んでいるものと乾いていいるものとでは燃えやすさに差があります。薪などの燃料は乾かしてから使います。また、火事のときは水をかけて熱を奪い、火を消します。

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燃焼のスピードが速く、物質の気化による圧力の上昇と、圧力による構造物の破壊を生じる現象を、爆発と呼びます。

代表的な爆発反応を起こすものは火薬類です。通常はそのもの自体の化学反応により、高熱を発し、高圧・高速のガスが衝撃波を作って、周辺のものを破壊します。体積の小さな固体が一気に気体になるため、威力も抜群です。

エンジンは鋼鉄製の部屋の中で引火性液体を空気と混ぜて点火し、爆発を起こし、そのエネルギーを使う装置です。気化しやすい燃料だけでなく、固体も爆発を起こします。粉塵爆発と呼ばれますが、炭の粉、小麦粉、鉄粉などが空気と混合され、引火して燃焼し、爆発します。

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火を封じ込めて、温度を高くすると、種々の物理化学反応を起こすことができます。炉で作られるものは、炭のような低温で作られるものから、陶磁器、ガラス、セメント、金属があります。

セラミックスは、狭い意味では、原料となる粉を焼き固めて作った焼結体と呼ばれるものです。粉の粒の性質や隙間があることで、多くの機能を引き出すことができます。錆びにくく硬い性質から、ナイフやはさみ、研磨道具。耐薬品性が必要な器具類。軽いので人工骨。熱に強いので、耐熱タイル。スペースシャトルにも使われています。圧力を電気に、電気を圧力にする圧電セラミックス。太陽電池としての性質を持たせることもできます。携帯電話はセラミックス製の小型コンデンサーが開発されて始めて今の大きさにできたそうです。

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炉を作るには断熱性と耐熱性の高い物質で、火を覆う必要があります。普通はレンガが利用されます。燃える3条件は、高温、空気(酸素)、燃えるもの。炉の構造は燃料を供給し、出てくる灰を除去し、空気を導入する仕組みを備えています。特に、高温を作り出すためには空気を送り込む必要がありました。ふいごの発明で、1000℃以上の高温を造ることができるようになり、鉄を還元し、大量に利用することが可能になりました。高温で燃える物体を近づいてコントロールするには、熱を閉じ込める必要があり、また、閉じ込めて冷めにくくすることで高い温度を保つことができます。

断熱性とは熱を伝えにくい性質を意味します。物体は固有の温まりやすさ、さめやすさを持ちます。1グラムあたり、1℃の温度変化を与える熱量を比熱といいます。熱は分子の運動エネルギーなので、分子数あたりの比熱は物質にあまり左右されず、大体同じ値になります。モル比熱と呼びます。体積あたりの暖まりやすさを容積比熱といいます。軽い(密度が小さい)物体ほど、容積比熱が大きく、断熱性が高い傾向があります。気体が一番断熱性が高い。ただ、気体では構造体を作ることができませんから、いかに気体を封じ込めるかが断熱材のポイントです。

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廃棄物及び清掃に関する法律、通称、廃棄物処理法が改正され、野焼きは禁止されました。3年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金になります。野焼きとは焼却施設を使わずに屋外で焼却することですから、焚き火も含まれます。

焼却施設には定義があり、改正の理由になったダイオキシン対策では800℃以上で常時燃焼できることが条件です。800℃以上で燃やせばダイオキシンが出ないとされています。したがって、法律では燃焼ガスの温度を計らないといけません。とても家庭ではできません。

そこで、野焼きに例外ができました。1つは焚き火やキャンプファイヤー。2つめは農林漁業でやむ得ないケース。収穫後の稲藁や籾殻を焼くなど。田舎では風物詩になっています。3つめは、風俗習慣上の焚き火。どんど焼きや火祭りがこれにあたります。とはいえ、都会や人家が密集しているところではもう焚き火はできない雰囲気です。

いくら法律の例外とはいえ、焚き火やキャンプファイヤーを楽しむときにはプラスチック、ビニールや発砲スチロールは燃やさないようにしましょう。ダイオキシンはベンゼン環(炭素原子が6個で六角形を作っている)2個が酸素でつながった炭素骨格に、塩素がベンゼンの水素と置換している構造をしています。塩素がなく、完全に燃焼するように心がければダイオキシンの発生を減らすことができます。

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いまの子供は、マッチを擦るのが怖くてなかなかできません。火災事故や誤飲が起きるかもしれないと、すべて圧電素子になってしまったためです。安全措置とはいえ、禁止するのでは返ってその危険性が認識されないのではないでしょうか。

着火具と同様に刃物も禁止されています。文明を切り開いてきた2大ヒーローです。使い方によっては火傷や傷を負うことは、石器の頃から先人は気づいていました。また、他人に対しても被害を及ぼすこともあります。刃物を用いる心構えは、使う人が傷つかぬように、また他人に刃を向けてはいけないということが基本です。

犯罪に使われている道具である刃物が危ないのでなく、使う人間の心や考え方が危ない。人間がつくり出した便利な道具や機械は、有益である反面、使い方によっては危険なものです。火薬、自動車、原子力、インターネット。危険性の知識もさることながら、人の心の在り方も訓練して初めて、免許皆伝になれます。

つづく

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